下呂温泉に 立ち昇る湯気 天までのびる 白い帯 飛騨川べりの 石畳には 夜露が真珠 散りばめて まだ誰も見ぬ 湯けむりの中 浮かぶ景色が あるという 遠い昔の 記憶のような 淡い光に 導かれ 湯宿広場の ベンチの上で 紋付羽織の 月が座り 石造りの狛犬たちに 夜話を聞かせ 笑ってる 温泉寺の 鐘の音色が 谷間を伝い こだまして 霧に溶けてく 祈りのように 闇を染めてく 硫黄の香 美濃禅定道 眠る山に 夜の帳(とばり)が 下りてく 修行の僧の 足跡のよう 星が連なり 瞬いて 石段の端に 咲いた彼岸花 赤い色さえ 忘れては 湯けむりの中 たゆたうように 記憶が溶けて ゆくように 朝を待たずに 目覚めた街が 新しい湯を 沸かすまで この場所だけの 物語めく 夜を少しだけ 残したい