水深 1000mに到達すると太陽光は 完全に届かなくなり、 ここから最深部までは 「暗黑の世界」が広がっています。 ゆえに、 深海の生物たちは視界ゼロの世界で 暮らしていると思われがちですが、 実は深海にいる生物の8割以上が 自ら光を作り 出すことができるため、 深海の中は完全な 暗闇ではありません。 暗闇の中で発光する生物たちは、 光で獲物を誘き寄せ、 捕食することで生存しています。 そのような地上とはまったく異なる 深海の環境は、 古代からほとんど大きな 変化はなく、 生息する生物も環境に合わせて 進化する必要がないため、 太古からの姿を保った 「生きた化石」 が多く生息しています。 「生きた化石」 として有名なシーラカンスは、 1938年に発見されるまで恐⻯と 同時期に絶滅したと 考えられていました。 そんな時の流れを無効にするような 神秘がこの層には存在しており、 1000 年先の海の中においても、 彼らの形は 変わらないのかもしれません。 そんな特殊な生物がいる 漸深層ですが、 生物の密度は低く、 基礎生産はほとんどされていま せん。 太陽光の届かない 無光層であるため、 知られている限り植物は存在せず、 光合成に頼らない、 異様な生態系が成立しています。 異様さの中心にいるのは、 煙のような水を出す熱水噴出孔と 呼ばれる煙突のような構造物です。 噴き出る熱水は 300°Cを超え、 生物にとっては 害があるにもかかわらず、 その周りには、 折り重なるように、 ひしめき合うように、 とめどなく溢れ出るように、 多くの生物が蠢いています。 光の届かない状況で、 彼らはどうやって 生存のエネルギーを 賄っているのでしょうか? 熱水にはメタンや硫化水素、 鉛や亜鉛などの硫化物が 含まれており、 これらの化学物質を エネルギーに変える 「化学合成細菌」が存在します。 熱水噴出孔の周りの生物を 身体の一部に宿し、 共生関係を築くことで、 光合成に頼らない化学合成による 異様な生態系を作り上げています。 地球以外にも熱水活動が活発な 星はあり、 エウロパやエンケラドスにも 熱水噴出孔が 存在するとみられています。 地球から 観測できない星の生態系について、 私にはわかりかねますが、 みなさんがこれまで診た星では、 どのような生の流動が、 渦巻いていたのでしょうか?