話のはじめは 新宿通り 伊勢丹前の曲がり角 歩行者天国の 人波の中で 出会いがしらにあいつと触れた ほんのはずみでその細い肩に なぜだか魅かれてしまったのでした 話はつづいて 角筈あたり 三越裏のカフェテラス 小さなテーブルに差し向かいで 身の上話に涙が落ちた ほんのはずみでその夜のうちに あいつを抱いてしまったのでした 話はかわって 西向きの古い あいつの好みの 二人の暮らしが 柏木あたり ほんのはずみが アパートの部屋 家具も揃えて はじまっていた ほんとになって あいつを愛しはじめたのです 話の終わりは新宿駅で 始発のホームに ただ一人 にがい思い出を 一つ背負って 旅立つあいつを 見送ったのです ほんのはずみで朝もやの中に 涙が二つ 落ちてきました