ハンガーの知恵の輪を 解くのにさえ梃子摺って 堪らず家を飛び出してしまった イヤフォンに耳を塞ぐも 選曲する気力さえ無くて ジョンケージを聴いている体で 歩いた 撓曲崖をぽつりぽつりと 灯し出す生活の黄色 給水塔刺す斜陽の赤と 山の青はレイリー散乱の色 尚以て表せない希望の種の色 私が私を信じるに値する程の 疚しくなった 疚しくなったんだ 人の間に生きて人間なら 生憎私は蚊帳の外で 疚しくなった 疚しくなったんだ 人に背き背かれる程の 関心も度胸も個性も無く漂えば 化物にもなれずUMAより unidentified 風の心地良さも束の間 幹線道路にて ハイデッカーバスが追い越しざま 残していった煙たさに いつかの旅行が朧気にプルースト 忘れる事忘れない 人工知能に綯い交ぜられた様な 平均値的な笑顔 溝に捨てた時間と孤独を 炙り出すに充分な笑顔 駆けていった中学生が疑いも無く 交わす 「また明日ね」 が眩しくて私は影に溶けた 向かいのコンビニだった空き テナントは 葬儀屋になっていて ひいては隔たる車道が 三途の川に思えて 前進を拒む信号は 却って投身の合図めいた 相応しい最期かと空想する 右足 左足 右足ーー 早速嘘臭いや 下手糞だった 下手糞だったんだ 追い込まれ方の一つさえ 車の濁流を真面に躱した 不意に光った 不意に光ったんだ 帰る私を目掛けて 誰かの家の人感センサ付き玄関灯が 泣き出しちゃった 泣き出しちゃったんだ 何だか人間と認めて貰えた気がして 泣き出しちゃった 泣き出しちゃったんだ 見知らぬ人に惨めな姿を 晒した決まりの悪さも 隠してしまってはいけないんだ きっと