須臾の夢と あの桜が 散りゆく頃に 木の芽風 吹きぬく屋敷 遺された姫君 桐箱の中 見つけたものは 辞世の詩 鳥たちが春告げる頃 繰り返し夢を見る 朧げな景色 君の詠む詩は 幼き日に臥して 己が命も 半ばに達すと知りながら 咲きては枯れる花を見れば 現世の夢のよう 桜なき世に生まれたなら 便りを待つ心も せわしなき山風の 憂いも無いのでしょう 須臾の夢と あの桜が 散りゆく頃に 時を越え届く言の葉 現身に重ねて 芽吹いた記憶は 薄氷のように 春霞に溶けて 己が道も半ばで やがては散るのでしょう 永久に咲く花の前で 足を止めるでしょうか 限りある世に生まれたなら その無常を知りせば 終に散りゆく刹那 輝きを放つでしょう 桜の下 めぐり逢うと 思える程に 君が為 詠み遺す 春の返し歌 咲きては枯れる花を見れば 現世の夢のよう 限りある世に生まれたなら 露と消えるこの身も 移ろいゆく季節も 夢のまた夢でしょう 須臾の夢と あの桜が 散りゆく頃に