冷えた風が吹く 夜の帰り道 理由もなく また足が向かう場所 灯る看板、のれんの隙間 湯気の向こうにふたりの笑顔がいた 「おかえり」なんて言わないけど その声がなんか、胸に残る 小さな鍋に しみる出汁の味 心の隙間に流れ込むみたいに ただ静かに流れる時間 名前のない優しさに救われた 笑い声と煮える音の中で 自分を取り戻してた夜だった 誰にも言えないことを抱えて 黙って飲む燗酒が沁みる 彼女たちの背中が語る強さ 少し羨ましくて、 ちょっと切なかった いつかこの店も変わってくのかな そんなことをふと思ってしまう でも今はただ、ここに居させて 誰にも見せない顔で、ただ居させて 恋でもなく、家族でもなく でも確かにここにある絆 言葉じゃなくて 湯気の温度で 伝わるものに、俺は救われた ただ静かに流れる時間 名前のない優しさに救われた 笑い声と煮える音の中で 自分を取り戻してた夜だった 明日もまた理由もなく来る それでいい、いや、それがいい 湯気の向こうに、またふたり 俺の心の定位置、灯りの先に