知らない人たちが 地図を書き換えてゆく 透明な犬が横切る歴史の中 知らない挨拶が ビルへと変わってゆく 壊された分だけ作るのだ 生まれた分だけ壊すのだ この街の背表紙を撫ぜる風 働いて恋もして 目覚めたら 春になり損なったゴースト 君も僕も 毎朝命を支払って 指先は季節を捲った 明日は図書館に行くのだ 台風が去った次の朝 何かが変わっている 一輪挿しに 居心地悪い僕は 街へ出る 待ち合わせが折り 重なってこの街はいつも 新しくなっていく すれ違う眠たさを集めてみれば 空中を少し歩ける ような気がする 引っ越していく言葉の群れ 「風邪をひきあって 暮らしませんか」 と書かれた手紙が 人知れずに咳をする 固有名詞が似合わない僕は ちょっと寂しくなったフリをして 「戦争、 戦争」 と心の中で呟いてみる みんなそれぞれの台詞を持っていて それぞれの悲しみに印をつける 文明の欠伸の中で 待ち合わせを重ねて 春になり損なったゴースト 君も僕も 毎朝涙を支払って 指先は季節を捲った 群像を空に映したまま 二つから一つを選んだ 明日は図書館に行くのだ