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静かな犬 谷川俊太郎 静かな犬が 私のかたわらにうずくまっている 私の犬ではない おそらく誰の犬でもないだろう 静かな犬は ものと問いたげに私を見上げる 恨みや諦めの色のない眼 私より上等な魂 いのちはすべて自然の無言に抱かれ 生きて滅ぶ 言葉を持ってしまったヒトだけが こうして自然に逆らっている 空気が身じろぎする 小川が河に合流する 思い出の花の香り 子どもの遊ぶ声・泣き声 静かな犬は 静かに待っている 次に来る何かを 何の期待も幻想もなく