霜のおりた時間が すこしずつとけはじめ 忘れていた痛みが よみがえる 回る季節 ── そのたび。 像はほどけ。 声も忘れ。 面影も消えて。 冬に並べた記憶が 陽を求め芽吹きだす 涙は生きているものが流すの 死など望みもしないころ 無邪気に殺した菫の花は 砕けた記憶の狭間に消えた めぐる季節に楔を打った さよならばかり積もる道の途中 色の無い桜に埋もれていく 「生きるうちは黙せりが 死してこそ響かん」 そう彫られたピアノを なだめてる 回る季節 そのたび 花は舞い散り 身は朽ち 愛憎尽きて 「できたら 生きているうちがよかったね」 穿たれた胸 音が貫く 惨めに揺らされ哀れな心 喚きも涙も歌えもしない 情に棹さすから流されるんだ 死んだら骨は楽器になるかな どれだけ季節を⻑らえば逝く? 散った花がくすみ濡れている 涙は生きているわたしが流すの 死など望みもしないころ 無邪気に殺した菫の栞 つめたく凍てつき 時間を止めて きれいなままで 覗いていた 褪せて色をうしなった画面に 一滴落ちると 彩られていく 百も満たない春がまた来る その度この頁 開けるように 失くしたあの日の手向けに捧ぐ 朽ちぬ菫を そっと飾ろう さよならばかり積もる片隅で 春たちの亡骸 その上で咲く