肝心な話はぜんぶ 表情で覚えた。 どうでもいいことは 心根で覚えた。 小石が転がって、 それさえも楽器だった。 ポケットから手は出して。 転ばないでね。 冬萌の早緑。欄干下の汀。 二月というより、 色素の薄い春だった。 秘密が秘密のままじゃないことで ままごとみたいにかかる魔法。 余分を愛せるようになったこと。 遠回りの方が道を覚えること。 大切な話はぜんぶ 声色で覚えた。 どうでもいいことは 声色で覚えた。 毛玉の浮いたニット。 背中のはとれないんだ。 あぁ、そうか。 生きるのって二人要るんだな。 「私ってこんな声なんだ」と 馴染んだ声が まさに、二月らしい。 燦然とした冬だった。 ほんとに好きだね、 ビタースイート。 フライパン、ポップコーン、 スタッカート。 見てるこっちが寒くなるスカート。 「ただいま」だけに宿るもの。 ただ、今だけにしない方法を 探しているんだよ。 鴨居にかけたコートから 中間の匂いがして さむいのに、 あたたかいものを知った。 秘密が秘密のままじゃないことが こんなにも夜をつくるのか。 余分を愛せるようになったこと。 あぁ、そうだ。こんな日だった。 普通が普通のままであることで 冗談のようにかかる魔法。 余分を愛せるようになったこと。 とっくに本分になったこと。 今日みたいな曠日は 毛布に包まる口実だ。 定時に動く中央線。 小銭が返される自販機。 冬の、痛い肺の高揚感。 変わり映えしないけど、 当たり前じゃないこと。