親父が 初めて負けて 大きな家を 払った 指のささくれ 抜くみたいに 後ろ向きで 荷造りをした 嫌な思い出はみな 残してゆきましょうと 床の間の掛軸 丸めながら かあさんが 言った ちょうど かくれんぼで 息 ひそめて 鬼の過ぎるのを 待つみたいで 何も無くなった部屋では おばあちゃんが 畳拭いてた それから 移り住んだのは 学校の裏通り そこで はじめて 家で過ごす 親父の 背中を見た ひとつ 覚えているのは おばあちゃんが 我が子に 負けたままじゃないだろう と 笑いながら 言ったこと 人生は 潮の満ち引き きたかと思えば また逃げてゆく 失くしたか と思えば また いつの間にか もどる そのあと 我が家は も一度 家を かわることになる 一番 喜ぶはずの人は 間に合わなかったけれど 人生は 潮の満ち引き きたかと思えば また逃げてゆく 失くしたか と思えば また いつの間にか もどる