AWA

彼女の秘密-skit

Track byDORMITORY

0
0
  • 2024.06.29
  • 4:30
AWAで聴く

歌詞

彼女はいつも、 僕よりも先に待ち合わせ 場所にいた。 彼女は僕の視線に気が付くと、 小さく手を振ってから、 耳にかけていた 青いイヤホンをそそくさと外す。 「待った?」 「全く。」 いつだってそんな会話で、 僕たちのデートは始まる。 だから、 僕は彼女がいつもどんな音楽を 聴きながら 待ちぼうけしているのかを、 尋ねるタイミングを 見つけられずにいた。 「あのさ、 いつも何の曲聞いてるの?」 一度だけ、 それとなく 尋ねてみたことがあった。 「曲?なにが?」 「なにがって、ほら、 今日だって僕と会う前に何か 聞いてたじゃん。」 そう言うと、 彼女は目をすうっと細めてから、 小首を傾げた。 「あー、なんだっけ。 忘れちゃった。 思い出したら言うね。」 明らかにはぐらかそうとしているこ とがわかった。 けれど、 彼女が忘れたと言った以上、 追及することはできなかった。 彼女と出会ったきっかけは、 マッチングアプリだった。 デートの約束を取り付けた 相手との待ち合わせ場所で、 なんと僕は、 人違いで 彼女に 声をかけてしまったのだった。 「あの、Kさんですか?」 「K? まあ、Kでないことも、 ないですが。」 きょとんとした顔で、 彼女は片耳からイヤホンを外した。 そういえばプロフィール欄に、 “趣味:音楽”と 書いてあったっけ。 そんな軽率な判断で僕は 彼女をKさんだと思い込み、 そのまま目的地である喫茶店へと エスコートした。 僕が、 彼女がKさんではないと 知ったのは、 本日本来お会いすべきだった 本当のKさんから、 アプリにメッセージが十何通も 届いていることに 気付いてからだった。 「別にいいよ。 はじめはナンパかと思ったけど、 本当に勘違いしてるっぽくて 面白かったから。」 人違いを陳謝する僕に、 彼女はあっけらかんとそう言った。 掴みどころのない、 妖艶な雰囲気がそこにはあった。 僕はすぐに、彼女を好きになった。 話しても話しても、というか、 話せば話すほど、 彼女の人となりは 分からなくなっていった。 端的に言えば、 彼女はとてもミステリアスな 女性だった。 そんな彼女が、 いつも聴いている音楽…。 それがどんなものなのか、 気にならないといえば嘘だった。 「あ、充電ヤバいかも。」 それは、 僕たちが レンタカーで2時間かけて、 隣の県にある動物園にまで行った 日の、その帰り道だった。 意外にも動物好きであった彼女は、 スマホでカバやペンギンの動画を 絶えず撮影していた。 デート中はあまり スマホをいじらない彼女が、 充電を気にしているのは 新鮮だった。 「iPhoneだよね。 これ、多分使えるんじゃない。」 言って、 僕は車載している ライトニングケーブルを 彼女に手渡した。 彼女は「ありがとう。」 とそれを受け取ると自らのスマホへ 繋いでから、 車窓の向こうへと顔を向けた。 瞬間、 耳慣れない音楽が僕たちを包み 込んだ。 「え。」 ぎょっとした目で、 彼女はこちらを振り向いた。 僕も丁度、 彼女に視線を向けたところだった。 何拍かの間を空けてから、 僕たちは同じタイミングで 真相に辿り着いた。 車内のオーディオパネルに 目をやると、 そこには、 現在流れているこの曲の情報が 表示されており、 彼女のスマホに接続された ケーブルの根本が、 オーディオパネルに 繋がっていたことが分かった。 そうか、 これが彼女が普段聴いている 音楽なのか… 妙なタイミングで、 僕がそれまで抱えていた疑問は 解消されることになった。 そこには、 『DORMITORY - LOCAL IDIOT』 と表示されていた。

このページをシェア

DORMITORYの人気曲

DORMITORYのアルバム

DORMITORY
の他の曲も聴いてみよう
AWAで他の曲を聴く
はじめての方限定
1か月無料トライアル実施中!
登録なしですぐに聴ける
アプリでもっと快適に音楽を楽しもう
ダウンロード
フル再生
時間制限なし