世界が壊れてゆく音がする わたしたちが 目をそらしているうちに 小さな画面に支配されているうちに 目の前の生活に追われるうちに ものさしはどこかに落としてきた 良いもの 悪いもの 美しいもの 醜いもの 好きなもの 嫌悪するもの 見分けがつかない 崩れ落ちる壁を 燃え盛る炎を 曇った目で見ている 遠い話だから 大きな力が動いているから わたしなんて そう思っているうちに 魔物はすぐそばまで来ている ひび割れた床が続いている 足につめたい薄緑のタイル 水滴の落ちる音 曇りガラスから差し込む光 誰かのあたたかな呼び声 本当にあったことなのか そうじゃないのか もう分からない 鮮やかな緑の野原を歩いている 時折足をすくわれながら 腰の丈まである青々とした草と 咲きこぼれる小さな花 むせ返るような匂い 草葉の露がこぼれる 空はどこまでも高くて 草原はただひたすらに続いている 不意にこみ上げる涙を やっとのことで押しとどめる あの向こうへ進み続ける 涼やかな風を受けて 時折流れ込む靄を払いのけながら 誰かの痛みを 名もなき声を 軋み続ける音を 身に刻みながら 立ち止まり 振り返り 転びながらもがいてゆく このかけがえのない日々を