モスケワでセスナが降りた その晩ベランダで きみこう言った もう10年普通に生きて ここまで来たよと レジを打つ娘を笑う 隣の老夫婦には子供がいない 夕方差し込んだ西日の熱は 床にも膝にもない インフレのあとでかならず 彼女とわかれて それでも自分が 変わったことなどなかった 鈍行で今住む町を 2日も離れると全部が終わる ああ随分 傷つけたけど きみとは終われない 青森や佐世保や呉や 招かれない船が港に入る これから10年変わり果てても 心は動かない いつかは帰ろう 自分の生まれた町へ 思い出の場所に きみを話しに帰ろう インフレのあとでかならず 彼女とわかれて それでも自分が 変わったことなどなかった 矢のような生き方よ モスケワでセスナが降りた その晩ベランダで きみこう言った