「お前にも言わなきゃならないな」 盆暮れに実家に俺を呼んだ 親父は短くそう言った いつもと変わらずに またどこか旅行に行ったとか たまには実家に帰れだとか そう言うと思ったけど どうやら 余命1ヶ月らしい いつもと変わらずにそう言って 今後の話を続けた 親父からすりゃ、息子の同情なんて 要らないんだろう そういう頑固者だし そりゃこれだけの付き合いだから 理解はしてるよ 「安心して残り生きて、死になよ」 すこし茶化したのは 多少は予想してたから ずっと患っていたのは知っていたし 悲しくないわけじゃないんだ 実感がないだけ でもさ 一応早いうちに これだけ 言っておくよ 俺あんたが居なけりゃクズだった へたれた甘ったれ小僧だった 何度も泣かされたあの日々が こんな気持ちにさせるとは 無駄な日々も時間もなかった そう思えるくらい幸せになった あんたに壊されたプライドが 俺の小さな誇りだ また一つ嘘をついた 自分を守る小さな嘘 また一つ嘘をついた 小さな自分を守る嘘 小学生の頃だったか 通知表を書き換えて渡した 中学生の頃だったか 塾をサボって立ち読みしていた 少し経ってだったか 試験用紙を帰り道破って捨てた 大学辞めて家出た後は ひとり自由な地獄を見ていた 誰も助けちゃくれなかったなぁ 「自分次第」が傷に染みていたな 「俺何やってんだろ」だなんて 思う資格も無いのに あんたを認めたく無いから 呑気に生きたツケが回った 逃げちゃ行けないんじゃなくて 逃げられなくなったんだ そうだろ? 布団横たわる親父を見て いろんなことを思い出した あんたも覚えてんだろ? って言えば「さぁな」 ってとぼけるだろうな 教えられるようになって 教えられていたと気づいた 不器用は お互い様かな ごめんなぁ 俺あんたが居なけりゃクズだった へたれた甘ったれ小僧だった あんたから見りゃまだそうかもな でもこれだけは 言えるよ もうあんたがいなくたって 幸せだって 思えるくらい幸せになった 下手くそに積み上げたプライドは もう要らないみたいだ ああ また季節は巡り人生は動く また夏がくる限りは あんたに泣かされたこと 忘れられそうも無いよ クソ親父