雨粒のリズムで夜が始まる 誰も使わぬ電話ボックス 十円玉を握りしめて あなたにかけた最後の声 公衆電話の中小さな世界 窓越しに見えるあの日の背中 「元気でね」と言えなかった 受話器に残るため息だけ ガラスが曇って視界が揺れる 涙と湿気が混ざった声 ブルースのようにうまく言えず 心だけが鳴っていた 電話ボックスのブルース 流れるのは 言えなかった恋 十円でつながる最後の鼓動 誰にも届かぬ夜のソナタ 隅っこに忘れられた赤い傘 誰のものかももう分からない でもあの日は私だった 捨てられた記憶がそこにいる 時代に取り残された声 スマホじゃない本当の言葉 ポチっと押すより震える指で 「愛してる」と言いたかった 電話ボックスのブルース 錆びついた声のメロディ 受話器が語るふたりの秘密 時代を超えた沈黙の歌 ギターの切ない響き 駅前の信号がまばたく 足元の水たまりに あなたの影が揺れる 電話ボックスのブルース 繋がらない番号に祈って 十円玉が落ちる音が 恋の終わり告げていた 雨は止んで街は静かに 誰も見向きもしない場所 でも私は今日もここに立つ 電話ボックスであなたを呼ぶ
