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走性

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  • 2024.03.31
  • 5:09
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歌詞

たとえば 突然紙とペンをポンと渡されて 「さぁ詩を書いてみましょう」 なんて言われても はて、何を書けばいいのだろう、と 気付くと 途方もない空白の世界の中心に放り 出され 辺りを見渡すばかりで何も 進まない。 何にもない。 ただ膨大な空間だけがある。 その上をダンゴムシが 隅っこを求めてふらふらと彷徨う。 走性を持つのは虫や 魚だけではない。 人も その思考や無意識も 同じように刺激に対して 走っていこうとするのだろうとよく 思う。 かくいう僕は今夜も1人 東武アーバンパークライン 大和田駅。 改札と反対側の道路で立ち尽くし 遠くを見ながら歌を歌っている。 ”アーバン” の意味を辞書で調べたくなるくらい 空が広くて星が綺麗だ。 オリオン座はどう見たってオリオン 座だ。 真上のは確かペガスス座。 名前が好きだ。 踏切のある街。 カンカンカンと空を叩く音。 落ちてくる遮断桿によって 分断される生活圏と僕の通り道。 到着した電車。 交錯する人々。 僕の乗る電車はまだ来ない。 僕の身体中には沢山の糸が 絡みついていて その1本1本があらゆる 方向に伸びている。 そのウチの1本でも乗った電車が 来たら 丁寧に手繰りながらそれに 乗るんだ。 どうしても、仕事が忙しくて どうしても、家族と離れられなくて どうしても、 まだマスクは外したくなくて どうしても、 今やらなくてはいけないことがあっ て いいことだ。 僕達の関係性は 距離なんかに負けやしない。 離れていたって一緒さ。 オリオン座はどう見たってオリオン 座だろう? 僕達の事をなんて名前の星座と 呼ぼうか。 あの日の「また会おう」 を財布に入れて持ち歩く。 あの夜の「次は負けないぞ」 をヒートテックの下に挟む。 どうかみんな 健康でいられますように 生き延びられますようにの 朝晩2回のお祈りが 糸を伝って優しく足を絞める。 僕はこの質量のない”想い” というものを とても信じている。 ”愛”や”運”や”縁”や”恩”を BluetoothやWi-Fi くらい信じている。 共同主観でできた仮想建造物や線を ”運命”だとか”意味” だとか呼んで無理やり 実在させなくても 幻であろうと このファンクショナル・ フィクション 機能的な虚構を 愛して 大切な生きていく為の我が 臓器の1つとして 組み込む。 正面から向かってくる 直方体の未来が とめどなくぶつかってきて後方で 煌めく塵となる。 ダイヤの指輪を撫でる女性が 婚姻届に判を捺す。 外を知らない座敷の猫が 天動説の夢を見る。 左靴にダンゴムシが触れる。 そのまま左向け左をして 迷わずに僕の靴の先を行くんだ。 踏切が開く。 糸が張る。 もう行かねばなりません。 次はいつ会えるでしょうか スペースを埋める。 言葉。 言葉。 言葉。 言葉。 約束をしよう。 僕はそれを駅にする。

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