西面 最中の月 照らせし不知火に 陽炎の如く消えし 愛しき彼の君へ 艶やかな御衣纏いし童女の身上 真の名 告ぐことさへ叶わぬと思へず 憂き世 映す水鏡よ 澄ませ心音を 神依よ 禍つ日々よ 想ひ寄せ重ねて 雲隠れ 星月夜に 揺蕩いし朧雲へ 睦事に袖を振れど 番 行方知らず 願わくは参らせ給へ 妖しき彼岸の花よ 咲き誇れ宵の空へ 鈍色の簾の先 覗く 君は散りて おくれゐて恋ひば苦し 独り枕濡らす 夕凪に去ぬこの生命など 君の傍に置いてはくれぬか 耐えず 覚めず 朽ちず 去ねず 積年の冀ひさへ 帳となりて 言霊の宿る縁へと 未だ君を忘れ給へず 虚ろ烟る篝火さへ 憂き世 焦がす薄紅よ 顕せ心音を 儚き 想ひ放つ月詠 玉藻塵となりて 鈴の音よ 知らしめ給へ 紅蓮に燃ゆる想ひを 一念に流す涙 無冥 露と知りて 願わくは参らせ給へ 妖しき彼岸の花よ 咲き誇れ宵の空へ 西面 限りの月 照らせし御殿に 蛍光の如く光る 覚めぬ現世