「深い霧の中を灯りもつけずに ふら、ふらり、ひとりさまよい 無邪気な子どもがそう望んだから 気まぐれで手折られた花ひとつ 『ここは遺失物係です』 『何を失くされましたか』 『場所はどこら辺か、心当たりは』 すっからかんの頭と すっからかんのカバンの 底は抜けていた どこをどう歩いてきたっけ? 何を失くしたのかさえも わからなくて けれど大事にしてたことは 憶えていて いつか誰かが 拾ってくれるでしょうか 探し続けていたら がらんどうに向き合えたら いつか生きててよかったと 思えるでしょうか 天から賜るこの不幸せに 前触れも、筋合いもない ふわり舞った蝶がふと疎ましくて 徒に毟られた翅ひとつ ただ生きていたって意味が さして無いように思えて 諦めることばかり考えます なんとなくまた目覚めて なんとなく寝落ちている ひとつも戻らなかったカバンの中 明日も明後日もそうでしょう 大事なものが幾つもあって ひとつさえ失くしたくなくて ちゃんと抱えて歩いてきたのに 気づいたら空っぽだ 生きることってなんですか? 何を失くしたのかさえも わからなくて けれど大事にしてたことは 憶えていて いつか誰かが 拾ってくれるでしょうか 探し続けていたら がらんどうに向き合えたら いつか生きててよかったと 思えるでしょうか ただ生きていたって いいやと笑えるでしょうか」 誰かを踏み潰す雨が 止みますように。 差しのべられた手を ちゃんと取れますように。 失くしものを あなたと見つけられますように。 いつか、いつか、いつか、いつか、 いつか。