Everyone has a story, a memory of the wind,
and it can be very beautifully embellished.
“ 風の写真 ”
彼女は難病を発症していた
人の平均寿命には
残念ながら
遥かに届かないでしょう
彼女は自宅のアトリエで
ひとり静かに
好きな絵を描いて過ごしていた
彼はその噂を耳にすると
時間の許す限り
毎回数冊の本を抱え
彼女のもとを訪れるようになる
陽の差し込むアトリエで
イーゼルに向かい
筆をはわせる彼女の横で
彼はその小説の朗読をしたという
そして時々二人は散歩に出かけた
そんな時には
彼は自分の趣味である
登山の話をしたという
ある日、彼はずっと
考えていたことを彼女に提案する
ヒマラヤに
一緒にトレッキングに行きませんか?
彼女の病名は小脳変性症
彼は彼女に
身体を動かしてほしかった
平坦な高原から少しずつ
山歩きのトレーニングは始まった
そしてついに
ネパールへと飛び立つことになる
それは
二人にとって新婚旅行でもあった
この色褪せた写真は
その時のもので
誰に撮ってもらったのか?
ポカラのペワ湖を挟んで
ヒマラヤをバックに
風に揺れてる二人の笑顔
毎回するその話さ
ずいぶんと盛ってるだろ?
なんて僕が茶化すと
そうだな、そうかも知れないな
でもよ、おまえが存在している
それが答えにはならないか?って
親父は遠い目をして笑っていた
なんかドラマチックすぎるけど
まぁ、信じることにするよと
僕も微笑んだまるで風のような記憶
With love to my mother and father.
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