プレイリストのテーマは『さよならという新たな出会い』。サザンオールスターズには“別れ”や“時の移ろい”を歌った曲が数多くあります。その中から年を重ねてきた今だからこそ聴きたい歌という基準で選曲しました。かなり大人向けです。“新たな出会い”とつけたのは、よく知っている歌から突然、違う表情を発見することがあるから。彼らの音楽は万華鏡にも似ています。聴く側の気分や環境によって、曲の印象や感想が変化することがあるのです。人生経験を積むことで聴き手の感じ方が変わったというケースも考えられるでしょう。名曲はリスナーの胸にあるセンサーの仕様の変化を受けとめてくれる、懐の深さを備えていると思うのです。
“さよならだけが人生さ”という言葉が身に染みるようになってきました。別れはつらく悲しいものですが、人生を豊かにしたり、導いてくれたりすることもあります。“さよなら”を描いた彼らの曲を聴いていて、そんなことも感じました。喪失感や孤独感だけでなく、体中に温かな何かが満たされる感覚をもたらしてくれる曲がいくつもあるからです。しかもその効果は持続します。
なぜ彼らの音楽は歳月が流れても色褪せないのか。その答えは複数あるでしょう。回答のひとつは彼らの音楽の多様性。ジャンルやサウンドも多様ですが、強調したいのは歌の中にある感情の多様性です。喜怒哀楽や衝動がマグマのように溶けて一体となり、それらから噴出したものが歌になっている気すらします。つまり感情のミクスチャー音楽。聴き手はその中からその時々によっていくつかの要素を受け取ります。そこが万華鏡たるゆえんです。
彼らの音楽は万華鏡であると同時にタイムマシンの機能も搭載しています。どんな時代へでも自在に連れていってくれる歌、刹那の瞬間を永遠へと定着させた歌などなど。ラストは個人的な思い入れのある曲。1978年にデビューシングル「勝手にシンドバッド」でなんじゃこりゃ! と思考停止状態におちいり、その後、1stアルバム『熱い胸さわぎ』を聴き、「今宵あなたに」が最初のお気に入りの曲になりました。いわば初恋みたいなものなので、ひいきをしてラストへ。この曲の“今宵”は当時の“今宵”だけでなく、聴いた日の“今宵”でもあります。42年前の曲が今も新鮮に響いてくるなんて、そうそうあることではありません。サザンオールスターズという名前のタイムマシンをご堪能ください。(長谷川 誠)
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