“ ジャズ喫茶店 ”
海辺の田舎町の駅
その脇にある公衆トイレ
その脇の細道をしばらく歩いて
普段とは違うルート
廃屋の続く旧商店街
少し離れた場所から
ジャズの音色が微かに聴こえる
こんなところに
営業している店があるのか?
トタンと合板でDIY
お洒落なツギハギの外観
手作り感満載の扉を押し開ければ
音はボリュームをあげて
僕の耳からそれ以外の音を
すべて奪い取っていく感覚
目の前に
クラシックなオーディオシステム
巨大なスピーカーが四つ
トランペットとサキソフォン
なんとなく面食らっていると
ウッドカウンターから
いらっしゃいませと声がかかる
こんにちはと頭をさげて
いそいそとカウンターに腰掛けた
軽快なドラムとピアノ
くるくると回るレコード盤に
目を奪われ見とれていると
ジャズがお好きなんですか?
上の空で
はぁ、時々聴いたりしますけど
白髪にシャーロックのような
帽子をかぶって黒縁の丸メガネ
髪と同じ色の髭が立派な男性
僕より一回りくらい歳上だろうか?
なんになさいますか?
ちょっと肩に力が入って
通ぶってエスプレッソなんてたのんで
珈琲の香りを楽しむ
置いてあった音楽雑誌なんか捲って
店主が時々レコードを入れかえる
丁寧に慎重な手つきで
レコード盤をくるりとひっくり返す仕草
ナガオカのスプレーを一吹き
それを溝の流れに合わせて拭き取る仕草
針を落として
満足げな笑みでカウンターに戻る
ごちそうさまでした
とても美味しかったです
あの、また来てもいいですか?
もちろんお待ちしていますと店主
チリンと鈴を鳴らしてドアを外に開く
現実の世界へ戻った感覚
頬を撫でる風に
あれ、こんな心地よい風吹いてたっけな
…もっと見る